ランチアテーマのクラブミーティングに参加しているうちに「 8・32は2種類の音色でホーンが使い分けられる 」という話を聞きました。
さっそくながら調べてみると確かに取扱い説明書(オートザム発行)にもちゃんと記載されてました。
● ホーン
・ 低い継続音(主に自動車専用道路で使います。)
・ ”ピー”という短い音(ホーンを軽くたたきます。)
(オートザム刊 8・32オーナーズマニュアル P46より)
さっそく郊外でやってみましたがうまく鳴りません、軽く叩いこうが長めに押そうがいつもの音質と変わりませんでした。
さりとてそんなに必要性は感じていないし、だいたいそのようなホーン装置があるクルマなんて聞いたこと無いので、きっとオートザムの勘違いか誤訳だろうと決めつけてました。(笑)
と思いきや、ちゃんと2種類のホーンが鳴りますという8・32オーナー(92年式 フェイズ2)が現れました。
疑い眼にさっそく実演してもらいましたが、驚くことに確かにはっきり聞き分けることができました。
通常(?)のホーンは筆者のそれと同じ「 プォーン 」ですが、もうひとつのホーンは「 ファーン 」とまるでエアホーンの様に余韻を残して鳴ってます(実際エアホーンなのかもしれない)。
オーナー曰く、鳴らし分けは大変難しくて自分の思い通りには鳴らないそうです。鳴らし分けできるホーンだが鳴らし分けができないってこと?
この事実を知ってからなんとか我が愛車で鳴らしてみようと100回以上トライしてみましたが、一度も成功したためしがありません、そんなに鳴らし方が難しいホーンなのでしょうか?
それとも単に壊れてるのかな?
だいたいどちらも取扱い項目にある「低い連続」や「ビーという短い音」には聞こえません、オートザムでも鳴したこと無いんじゃないの?
なんでこのような凝ったホーンを装備する必要があったのか謎ですが、鳴らし方も謎です。
ここまで凝りながら最後の詰めがあまいというかなんというか・ ・ ・ ・ 摩訶不思議な謎のホーンです。
その後、他に何か資料はないかと調査したところ 1988年2月号のCG(カーグラフィック)誌 に大変興味深い記述を発見しました。
この号には当時販売したての8・32(フェイズ1)インプレッション記事が笹目二郎氏により書かれているのですが、その一文に、
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そしてホーンスイッチはパッド中央のランチア・マークを押せばよく、それも押し方によってバッと短いものから、ホァーンと余韻を残すことも可能なエアホーンという凝りようである。
(CG 1988年2月号 P109より)
などと書かれてます。
どうやら販売当初(もちフェイズ1)より 「 鳴らし分け 」 は可能だったようです。
確認のためガレージ伊太利屋モノの英語版取扱い説明書を見せてもらうと、ちゃんとこのことが記載されてました。
● Electric horns
・ Your Thema 8.32 is equipped with dual-tone electric horns.
・ A sustained gong-like sound, which is particularly useful on motorway.
・ A short <beep> actuated by pressing sharply on the horn botton.
(ガレイタ版 8・32オーナーズマニュアルより)
オートザムの取扱い説明書は単にこれの和訳と思われます。
しかしながら数多く8・32オーナーに尋ねてみましたが「 鳴らし分けができる 」オーナーがいかんせん少なすぎます、どうなってるんでしょうか?
次に8・32のパーツリストでバーツナンバーを調べてみます、すると、
● オーガナイゼイションナンバー:【834000−025315】まで
・ホーン・ハイ・トーン ZZXC−66−780
・ホーン・ロー・トーン ZZXC−66−790
● オーガナイゼイションナンバー:【834000−025315】以降
・ホーン・ハイ・トーン ZZXA−66−790
・ホーン・ロー・トーン ZZXA−66−780
(オートザム版 8・32パーツリストより)
と記載されてました。なんと生産途中よりホーンそのものが変更されてます、このパーツの違いこそが鳴らし分けできる-できないの鍵を握っているのではないでしょうか?
しかし確認をとってみるとオーガナイゼイションナンバー「 025315以前 」の8・32でも「 鳴らし分けができない 」との報告を数多くいただきました。
じゃぁ なんでパーツが違ってるの?
ちなみに「 オーガナイゼイションナンバー 」 とは 「 純粋なる製造順番号(製造ラインを出てきた順番) 」だそうで、パーツ専用に用いられる特有の管理番号です。
ランチア社に限らず、ヨーロッパの自動車メーカーのパーツ管理は車体番号では無くてこの方法を用いるところが多いそうです。
車体番号とはかなり違っていますので注意が必要です。
テーマの場合は、右ストラット前部にあるV.I.Dプレートの最下部に刻印されている「 NO.FOR SPARES *******」の7桁の番号の一の位をカットした6桁の番号がそのテーマのオーガナイゼイションナンバーとなります。
かつての筆者号は「 0254*89 」と刻印されてましたので、オーガナイゼイション番号は「 0254*8 」となりま。
上の表にあてはめると「以降のホーン」が装着されてます。
ちなみに車体番号は「2486**」と刻印されており、オーガナイゼイションナンバーとは全然関係がありません。
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筆者8・32のホーン |
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ここまで調査したらあとは実行あるのみ。肝心のホーンは左フェンダーの内側にありますので、左インナーフェンダーを外してホーンを見てみました。
予想通りホーンは2個付いてます、どちらかがハイトーンであり、ロートーンのホーンなのでしょう。
しかしホーンを写しただけでは何も解決しません、このまま迷宮入りしそうな雰囲気です。
半ばあきらめかけていたら、貴重な情報を入手することができました。ガレイタに長い間勤務していたメカニックさんが、このホーンの経緯を事細かに知っていたそうです。
要旨をまとめますと以下になります。
■ オリジナルのホーンは押し方で鳴らし分けることができる。
■ 日本での形式を取得するためにオリジナルの仕様を変えた。
■ 当初はホーンはそのままで間にリレーを入れて単一音にした。
■ その後ホーンそのものを変更した。
■ ごく初期の8・32はオリジナルホーンのまま販売されてた。
■ 中には未対策のままの8・32もあるみたいだ。
今までの事に100%辻褄の合う完璧な経緯です。
日本の法規ではホーン音は単一でなくてはならないそうで、わざわざ単一音に加工したのですね、しかもパーツ変更前のオリジナル車なら8・32に限らずテーマどの車種でも2種類のホーン音色の使い分けが可能だったそうです。
次にガレイタのメカさん証言に注目します、「間にリレーを入れて単一音にした」とあるので、単純に「リレーを介さなければ元に戻る」と予想されます。
ここまでの情報により、長野の89年式フェイズ2オーナーが果敢にも挑戦されました。
結果、見事に「 鳴らし分けホーン 」に変更する(元に戻す?)ことができたそうです!
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上部に黒くて小さい四角のリレーボックスが見えます |
”GONG”というホーンのようです |
左インナーフェンダーを外して見てみると、上部にボッシュの黒いサイコロ形リレーが1個付いてます。
試しにこのリレーを介さないように結線してみたら、あっさりと「 鳴らし分け 」ができるホーンになったそうです。
しかも100%使い分け可能だそうです、かなり羨ましい。
筆者も再びインナーフェンダーを外して検証してみました。・・・が、やはり「 鳴らないホーン 」のようです。(涙)
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リレーが無い |
”GONG”ではありません |
どこを見てもリレーなんて無いし、ホーンそのものも違うようです。
予想通り鳴らし分けができない「 変更済みホーン 」でした。
以上の検証により、オーガナイゼイションナンバーが【834000−025315】までで黒いリレーが付いていて「 GONG 」のホーンが装着されたテーマならば、「 鳴らし分け 」が可能なテーマです。
該当される8・32オーナーさんは挑戦してみてはいかがでしょうか?
また筆者のように「 対策ホーン 」装備車は「 GONG 」を手に入れなくては鳴らし分けは不可能となります。
しかしこのホーンはすでに生産中止&在庫も無いと聞いていますので新品の入手はかなり厳しいことでしょう、中古パーツで探すしかないようですが・ ・ ・。
それにしても対策したのにそのままの和訳を掲載してる取扱い説明書って?
混乱させないでね>当時のオートザムさん。
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