こちらでは8・32の型式について研究します。
8・32ヒストリーにも記載しましたが、ランチア・テーマ全体は大きく3種類に分類することができます。
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型式 |
生産年 |
8・32 |
PHASE1 (第1期モデル) |
1984〜1989 |
1987〜 |
PHASE2 (第2期モデル) |
1989〜1992 |
PHASE3 (第3期モデル) |
1992〜1994 |
生産中止 |
このうち8・32の生産は1987年1月から1992年?月までなので、フェイズ1モデルかフェイズ2モデルのどちらかになります、フェイズ3の8・32はこの世には存在しません。
本来ならこの2つのモデルだけで8・32を分類できるのですが、なぜかフェイズ2には車両型式やエンジン出力/トルクが異なる8・32があるを発見してしまいました。
これは日本の車検証を見てもちゃんと記載されており、どなたでも識別することができます。
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分類 |
型式 |
最大出力 |
最大トルク |
生産年 |
販売 |
フェイズ1 |
E−L34FL |
215HP |
29.0kg |
1988年1月頃〜1989年4月頃 |
ガレージ伊太利屋 |
フェイズ2 |
E−L34Q |
205HP |
26.8kg |
1989年5月頃〜1989年12月頃 |
E−A834F |
200HP |
26.8kg |
1990年1月頃〜1992年?月 |
オートザム、ガレージ伊太利屋 |
※生産年は日本での販売が基準です、生産年と登録年も異なります。
一番の争点はもちろん「E−L34Q」です。
生産がわずか半年と異様に短いのはなぜなのでしょうか?
その後の「E−A834F」型との相違点は、今のところ最大出力の違いと若干の装備の違いしか判明できてません。
しかしその最大出力の違いも、申請方法が違っていた可能性があって決定的ではないのです。(8・32の変遷参照)
型式が変わるというのは、やはり結構大きな変更があったからこそだと思うのですが。
・ ・ ・ ・ いったい何があったのでしょうか?
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まず最初に何か手がかりはないかと各型式車のエンジンルームに貼ってある「 V.I.N.プレート(車両型式識別プレート) 」を調べてみました。
日本人にとっての戸籍みたいなもんです。
正確にはフェイズ1とフェイズ2ではプレート記載方法が少し異なっているのですが、内容をまとめると以下のようになります。
ちなみにフェイズ1にはこのプレートにエンジン形式の記載が無いため、エンジン本体にある刻印を調べています。
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フェイズ1 |
フェイズ2 |
型式 |
E−L34FL |
E−L34Q |
E−A834F |
V.I.N.プレート |
車体番号(記載なし) |
ZLA834000−00****** |
MOTORE−ENGINE |
記載無し |
F105L.046 |
VERSIONE−VERSION |
834F |
834FS |
エンジンの刻印 |
FERRARI F105L
★*****★ |
3.0L FERRARI F105L046 ★*****★ |
※「****・・」には製造番号が入ります。
フェイズ1・2ともに車体番号と思しき頭の部分の「 ZLA834000− 」が一貫して共通なことがわかります。
この部分はシリーズを通して不変であるので 「シャーシ形式」 かと推測されます。
次に非常に気になる「VERSION」ですが、フェイズ1が「 834F 」、フェイズ2が「 834FS 」となっています。
この部分にはフェイズ2の2つの型式「E−L34Q」と「E−A834F」の差を見つけることはできませんでした。
また最後のエンジン形式ですが「F105L」こそ同じなものの、フェイズ2には末尾に「046」の数字が付いています、これには何の意味があるのでしょうか?
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さらに型式の謎を求め、次に本国イタリアでのフェイズ1・2のカタログを検証してみました。
残念ながらカタログに型式名は記載されてませんでしたが、他に興味深い発見がありました、驚いたことに本国仕様にはフェイズ1・2に最大出力/トルクの差が無いのです!
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CARATTERISTICHE TECNICHE |
Thema 8・32 |
MOTORE |
anterore trasversale con hasamento e testa cilindri in lega leggera |
Numero cilindri |
8aV (90゜) |
Diametro × corsa mm |
81 ×71 |
Cilindrata cm3 |
2927 |
Rapporto di compressione |
10,5 : 1 |
Potenza massima CV・DIN(kW CEE)a giri/min |
215(158)/6750 |
Coppia massima kgm・DIN(Nm CEE)a giri/min |
29,0(284,5)/5000 |
〜 以下省略 〜 |
※これは本国カタログ諸元表からの抜粋です、フェイズ1・2とも全く同じスペックでした。 |
調べるとご当地イタリアでは触媒の取付けが義務付けられてませんでした、どうやらこれは「触媒無し」の数値のようです。
すると「触媒あり」モデルだけがだんだんと出力低下されていったのでしょうか? |
次にイタリアは「 Editoriale Domus 」 という出版社から発行されてる 「TUTTE LE LANCIA 1907−1993 」という本(1993年発行、全512ページ)に、すべてのランチア車のスペックがカタログ的に紹介されている、という情報が飛び込んできました。
さっそく閲覧させて頂きましたが、この本はランチア全車のかなり細かいデータまでを網羅しており、その記載情報も信頼するに価すると思えました。
肝心の8・32はフェイズ1・2で分けられて次の様に記載されてました。
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8・32 − 8・32cat |
8・32 − 8・32cat Europa |
1986 〜 1988 |
1988 〜 92 |
Tipo F105L − F105L.046. |
Tipo F105L − F105L.046. |
2927 cm3 |
2927 cm3 |
81 × 71 mm |
81 × 71 mm |
10.5 : 1 (9.8:1,dal 7/1987) − 9.5 : 1 |
9.8 : 1 − 9.5 : 1 |
215 − 205cv /6750 |
215 − 205cv /6750 |
〜 以下省略 〜 |
※「TUTTE LE LANCIA(1907−1993)」より |
こちらにも残念ながら型式名は記載されてなかったのですが、数々の貴重な記載がありました。
まず気が付くのは生産初期から「 cat =触媒付き 」のモデルが用意されてるということです。
ちなみに表のハイフォンの前が触媒なし、後が触媒ありのデータです。
この触媒付きモデルは排ガス規制を実地していた国用(スイスが有名)への対策(輸出)専用モデルと思われます。
次に触媒付きのモデルのエンジン形式にはフェイズ1・2とも末尾に「 046.」の数字が加えられてます。
これは日本のフェイズ2にも見られた数字ですが、これこそが触媒対策モデルの正式エンジン型式名称と推測されます。
その下にある排気量やボア・ストロークはフェイズ1・2とも共通なものの圧縮比に興味深い記載があります。
触媒付きモデルのそれは一貫して9.5:1のままですが、触媒なしモデルは1987年の7月に10.5:1から9.8:1へと変更されています。
また最後の最大出力ですがこの表を見る限りフェイズ1・2に差はありません、最大出力の差は触媒対策モデルか未対策モデルなのかで決定されることになります。
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89年式ガレージ伊太利屋8・32オーナーより 「 私の英語版取扱い説明書には、2種類の型式と諸元表が記載されている 」との情報を頂きました。
正確には取扱い説明書の諸元表と追加された別冊(追補版取扱い説明書?)にあったそれぞれの諸元表なのですが、その記載はまるで今までの調査を裏付けしてくれるようなものでした。
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取扱説明書(英語版) |
追補版取扱い説明書(英語版) |
Body type number |
834F |
Body Version |
834FS |
Type of Engine |
F105L |
Engine type |
F105L.046 |
Compression Ratio |
10.5 to1 |
Compression Ratio |
9.5 to 1 |
Maximum torque |
284.5Nm,29kgm at 4500rpm |
Maximum torque |
263Nm at 5000rpm |
Maximum power |
158kW,215bhp at 6750rpm |
Maximum power |
150.5kW at 6750rpm |
※ガレージ伊太利屋版8・32(E−L34Q)付属取扱い説明書より。 |
結局、日本の車検証上にある 「E−L34FL」、「E−L34Q」、「E−A834F」 などの表記は日本以外ではお目にかかれませんでした。
今までの資料で発見できたのはフェイズ1・フェイズ2ともに共通の 「Vehicle type (シャーシ型式) : ZLA834000 」 と 「Body version (ボディ形式) : 834Fと834FS 」 だけです。
おそらくこれが8・32の型式なのでしょう。
日本での車検証にある型式は、その変更時期が輸入販売店の変更時期と完全に重なっています。
おそらくガレージ伊太利屋が申請取得した型式こそが 「E−L34FL」や「E−L34Q」であり、オートザム(マツダ)が取得したのが「E−A834F」だと考えられます。
よって筆者はこの型式の謎と最大出力の違いを次のように推測します。
● 経過その1
1987年、ガレージ伊太利屋はイタリア本国バージョン(フェイズ1:834F)を輸入し、日本上陸時に触媒を装着して販売した。
最大出力は少数輸入車のため日本での出力測定は行わず、本国と同じ215HPで申請を登録した。
また、日本での型式を「E−L34F」、エンジン型式は「Q」と申請を登録した。
● 経過その2
1989年のフェイズ2登場時に、ガレージ伊太利屋は輸入車種を触媒対策モデル(フェイズ2:834FS)へと変更する。
最大出力も触媒付きモデルそのままの205HPと申請し、日本での型式を「E−L34Q」と変更登録する。
エンジン型式申請は「Q」のまま。
● 経過その3
1990年、新たなディーラーとなったオートザム(マツダ)は触媒対策モデル(フェイズ2:834FS)を継続販売する。
最大出力は日本で測定しなおした200HPで申請する、日本での型式は「E−A834F」、エンジン型式を「F105L」で申請登録する。
と、一応今までの情報が破綻しないような説になってます、結構イイセンいってる推測と思いますが。
しかしながらなぜ輸入当初から834FSを輸入しなかったのだろう?という疑問が残りますし、 触媒付きモデルの834Fと触媒なしモデルの834FSとではどこがどう違ってるのかが未だ解明できてません。
ここらへんの情報をお持ちの方はぜひ筆者までご一報してください。
・ ・ ・ しっかしフェラーリ・エンジンは工業製品といえどもほとんどが手作りに近い手法で組み上げられてます、一機一機エンジンの個体差があって当然と思ってます。
資料上の馬力表示なんてあまり関係ないかもしれませんねえ。
※この項を書き上げるのにたくさんの方から協力&情報提供してもらいました、この場を借りてお礼申し上げます。
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